『光と風の間(はざま)で』総本家

総本家なんで、あれこれあります

やっとこさ【家族ノカタチ】をカタチにする その6

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★淡く深く、きらめく言葉たち~人の心に触れるということ~

 このシリーズの前の記事で、葉菜子が、母親の律子さんにも、そして友達にも話していない離婚の理由を大介に話したとお話しましたよね。それを話すきっかけになったのは、大介の後輩(で、部下かな)の結婚式前日、その後輩夫婦がけんかし、「別れる」と言って大介と葉菜子のところに飛び込んできたことでした。すでに籍を入れていた二人は、結婚式はやった方がいいというまわりの(もちろん大介や葉菜子以外の)勧めに従って式を挙げることにしたのですが、奥さんが後輩君と断絶状態になっている彼のお母さんに招待状を送ったことが原因で、けんかになったんです。

 大介の父陽三さんと律子さんのとりなしで、何とかことは収まったのですが、問題は、引き出物にするつもりだったのに、言い合いになった時に新郎君が投げつけて壊してしまった、二人が一緒になるきっかけを作ってくれた犬ガブリエルを模った手作りろうそくです。「もう間に合わないからあきらめる」という二人は、「お前らのこだわりが詰まってるんだろ。それを簡単にあきらめるなよ」という大介の言葉で、大介と葉菜子とともに4人で作り直すことになります。

 夜が更けても作業は終わりません。花婿花嫁が疲れた顔で式に出るのはシャレにならないと二人を帰した後、大介と葉菜子が後を引き受けたんですが、「結婚しないと言っている私たちが、二人で他人の(結婚式の)準備をしているって変」と、葉菜子は自嘲的に言います。その流れのままに、自分の離婚の理由を知りたいかと尋ねる彼女に対して、大介はこう言います。

 「そういうのってさ、話したい時に話したい相手にすればいいよ」

 葉菜子は、その披露宴の後、大介が一人、大好きなビールを飲みに通う行きつけの店にやってきます。そして、「話したいと思った」大介に、その離婚理由を話すんです。それを聞いて戸惑い、混乱する大介は、葉菜子を避け始めます。以前やり合う中で彼女に対して、その秘密に関するひどい軽口を知らずに吐いてしまっていたことを思いだしたこともありましたが、どう対処していいのかわからなかったんです。葉菜子は当然その態度にショックを受けます。そんな二人の様子を見ていた陽三さんは、「大介に迷惑をかけた。気持ちよくけんかできる相手を一人なくした」と話す葉菜子に言います。「迷惑なんて、掛け合いながら生きていくもんでしょ」と。

  「葉菜ちゃんは、ちゃんとしようとしすぎてるんじゃないかな。一人でふん張り過ぎてるんじゃないかな」

  それは、大介にとっても言えることでした。陽三さんは、その大介にはこう言います。「人に弱みを見せるっていうのは大変なことなんだぞ。何のことだか知らないけど、その弱みを見せてくれた葉菜ちゃんから逃げんなよ!」と。そして、「これ以上間違えないように、俺だって考えてる」と言い返す大介に、こう言うんです。

 「そんなに間違うのが怖いか! だから、一人でこの城に閉じこもって生きていくのか。人を傷つけないようにって人を避けて、かえって人を傷つけてるんじゃないのか?!

 その通りでした。それでも、それこそ「ちゃんとしようとしすぎる」大介はまだ迷います。そして、「昔一緒に生きた戦友」のようになっている元カノに(その問題の内容は隠して)話を聞いてもらうんですね。

 「結局大介って、自分が傷つきたくないから人を傷つけたくないんだよね。人と距離を置いて、自分を守る…」と、彼女はかなりきつい一言を吐きます。「オレはずるい人間なんだよ」と応える彼に、彼女はさらに言葉を重ねます。「しっかりしなよ、大介。誰でもよかったと思う? 大介だから、大介じゃなきゃだめだから話したんじゃない」と。そう。「話したときに、話したい相手にすればいい」と言ったのは、ほかならぬ大介です。そして、葉菜子はその通りにしただけでした。

 「大介に足りないのは、ほんのちょっとの覚悟…。受け止めてあげる覚悟…。傷つく覚悟…。傷つける覚悟…。誰かとちゃんと向き合う覚悟…。自分がするいってわかってる人は、やさしくもなれるからね」

 大介は、覚悟を決めます。そして、葉菜子の仕事帰りを待ち伏せて誘い、こう言いだします。「わかんないんだよ、考えても…」と。葉菜子は応えます。「だから、忘れて!」と。でも、大介は今回はひきません。

 「忘れないし、考える。もっともっと考える。考えるから…、次また何か吐き出したくなったら…、少しは耐性できてるから…、しんどくなったら、また俺に言え」

 それは、人と深く関わり合うのを嫌う大介が、自分から葉菜子との垣根を超えた瞬間でした。(その7に続く)