『光と風の間(はざま)で』総本家

総本家なんで、あれこれあります

やっとこさ【家族ノカタチ】をカタチにする その7

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★淡く深く、きらめく言葉たち~崩れおちる鎧~

 この前書いたように、大介が自分を守るために着こんでいた鎧は、周りとあれこれかかわることで段々とほころび始めます。

 たとえば、この前の、後輩君に自分たちのこだわりの詰まったものを「あきらめるな」…って言葉は、それまでの大介なら言いもしなかったでしょうし、葉菜子から親にも言わないでいた秘密を打ち明けられたことに戸惑う気持ちを、一時を共に過ごした同志のようになっている元カノに相談するなんてこともなかったでしょう。そういえば、葉菜子の後輩の女の子にプロポーズされたとき、こんなことがありました。

 その子は、素直ないい子です。最初のうち、「仕事なんてどうでもいい。とにかく結婚したい」と言い放つような、俗にいうKYな子でもあったのですが、葉菜子の影響を受けて、仕事への責任もこだわりも持つようになり、人の想いを察することもできる女性に成長していきます。そういう中で見つけたのが、大介でした。

 ご存知の通り、大介には「結婚したい」という想いがありません。ですから、葉菜子に、「向かい合ってきてくれる人には、ちゃんと向きあわないと…」と言われ、その言葉に後押しされて…、いや、されなかったとしても、その答えは決まっています。

 大介は、伝えます。「ずっと一緒にいるというのが想像できない」と。彼女は、「それなら、結婚しなくていい」と応えます。結婚できなくても、大介と付き合っていきたいと…。それに対して大介はこう言うんです。

 「(結婚して)家庭を作るのが夢なら、それを簡単に譲るなよ! 肝心なことを譲らないでいい人はいるから…。そういう人を探せ」

 これ、字だけだと、「何を勝手なことを…。余計なお世話よ!」と言われてしまいそうな言葉なんですが、ドラマの中の大介は、本当に彼女を思ってそう言っているのがわかりました。彼にとっては、後輩君が壊してしまった手づくりの引き出物を「あきらめるな」と言ったのと同じような想いでの言葉です。それは、どちらも相手のエリアに足を突っ込んでしまっている言葉でもありますよね。それを言われた彼女は、きちんと受け止め昇華していきます。

 実は、葉菜子に「まっすぐに向かい合ってやれ」と言われたとき、大介はこんなことを話しているんです。

 「いい子なんだけど、ちょっと疲れる。いろいろ気を使ってくれて…、気を使われすぎて…、こっちも気を使う」

 そしてその後日、もと旦(那さん)に大介を思う気持ちがあるんじゃないかと問われ、「誤解だ」と応えた葉菜子は、こう言ったんですね。

 「遠慮なく言いあえて…、気持ちよくケンカできて…、つらい時は気持ちを吐きだせて…、とっても居心地のいい相手だけど…」

 考えてみれば、葉菜子のこの言葉は、↑の大介の言葉の反対側にある言葉です。もと旦(那さん)じゃないけど、「一緒にいたいと思う理由に、他に何が必要?」って言いたい感じ。激情にかられて「愛してる!」ってのでもないし、「片時も離れたくない」という感じでもない。ただ一緒にいて心地良く、しんどくない相手…。それって、いちばんいい相手じゃない?

 この二人の関係性をあらわすシーンがありました。実は、ネタバレの話なんですが(というか、けっこうここまでもネタバレか…)、父の陽三さんが大介のもとにやってきた理由は、自分に残されたわずかな時間を、一人息子の大介と過ごしたかったからだったんですね(実は、新しい奥さんとはちゃんと連絡を取り合っていました。その結婚のいきさつも、「そういうことか。なるほどね~」というものなのですが、まっ、それは置いといて…)。

 葉菜子親子を含め、ごく内輪の人だけに明かされた陽三さんのその告白を聞いた後も、大介は平静を装います。心配する葉菜子親子を笑顔でかわし、陽三さんさえもかわし、また鎧を着こむんです。その大介に葉菜子は言います。「やめなよ。そんな作り笑い…」と。そして、大介は話し出し出します。たぶん、それまでの彼ならけして言わないだろうことをとつとつと…。

 「親父の顔をまともに見れない…。いきなり死ぬなんて、ふざけるなっつうの! 親父が元気で焼津に帰ると思ってた時は、一人になるのが楽しみだったのに、今は…、親父が死んで一人になるのが…、そんな日が来るのが怖い…」

 それを聞いた葉菜子は、静かにこう言います。「一人がつらくなった時は、来ればいいよ。エレベーターに乗って一つ上…。来ればいい…。似たような人がいるからさ、そこに…」って…。そして、後ろを向いたままの大介の肩を、励ますようにポンポンと叩くんです。

 大介は、一旦はその手を払いのけるのですが、こらえきれずに振り返り、葉菜子を抱きしめて泣きだします。たとえば恋人にするような、そんなハグではありません。見ようによっては母の胸に飛び込むような、そんな風にも見える姿です。葉菜子は再び、大介の背中を叩きます。泣きながら、今度はいたわるように…。

 これが、このドラマ唯一のラブシーン(?)。離婚の理由を話した葉菜子と律子さんの抱き合うシーンとともに、とても心に残るシーンでした。(やっとラストが見えてきた8に続く)