『光と風の間(はざま)で』総本家

総本家なんで、あれこれあります

やっとこさ【家族ノカタチ】をカタチにする その8

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★淡く深く、きらめく言葉たち~家族になるということ~


 穏やかに時を過ごす陽三さんは、ある日、多分一番やってみたかっただろうことを言いだします。大介とお酒を飲みたい…というんです。それも、大介の一番のお気に入りで、誰もいれないということになっている(実は陽三さんが何度も入っていたことを大介は知っていた)ロフトで、大介の大好きなビールを飲みたいと。


 陽三さんはそこで、「いろいろと迷惑をかけた」なんて言いだします。大介はと言えば、「やめろ。そんなんで、親父の迷惑行為の数々がチャラにはならない」と素っ気ないことこの上ありません。それでも、それまですることのなかった亡き母の話などし始めたりして、心はほどけている様子。陽三さんは静かに言います。「葉菜ちゃんとの出会いは大事にしろよ。葉菜ちゃんが手伸ばして来たら、その手しっかり掴んで話すんじゃないぞ」と。


 それに応えない大介は、「みんなと飯が食いたい」という陽三さんの願いをかなえることにします。弟君と図って、陽三さんが出会ってきた人たちを呼んで、スパイスから大介が作るカレーでもてなすパーティには、葉菜子親子はもちろん、陽三さんの旧友たち、大介の会社の人たち、例の、大介にプロポーズした葉菜子の後輩、葉菜子のもと旦(那さん)など、陽三さんと出逢い、その人柄に魅せられた人たちが集まってきます。


 そんな中で、葉菜子の後輩の彼女が、大介にそっと聞くんです。「葉菜子さんとなら、想像できますか? ずっと一緒に年を取っていくってことが…」と。それは、大介が彼女と生きることが想像できないといった言葉を下敷きにした質問です。嫌味でじゃありません。彼女は感じていたんです。葉菜子のもと旦(那さん)も、律子さんも、そして、もちろん陽三さんも(↑のようなことを言ってますからね)。大介はここでも応えませんでしたが、それは、大介が自分自身に問うていた言葉だったんじゃないかとも思えます。


 大好きな人たちに囲まれて、それぞれの楽しそうな顔を見ながら、陽三さんは旧友たちに語ります。「世の中、うまくいかないことも、つらいことも、いやなことも、山ほどあるよ。だけどさ、同じ屋根の下でおんなじもの食ってさ、旨いなぁと思える相手がいたら、世の中大抵何とかなるんじゃないか」と(その後ろでは、「夜は炭水化物を摂らない」と言い張る大介が、葉菜子に睨まれ、ともにカレーを食べています)。にぎやかなみんなの上を、大きな一つのウ冠が覆う。このドラマの最終回は、こんな風に始まりました。


 最終回の割と早いタイミングで、陽三さんは亡くなってしまいます。はらはらと桜の花びらが散るころに。お通夜の前日、亡き父と二人だけになった大介は、すでに物言わぬ父の顔を覆う布を取り去り、つぶやきます、「ふざけるなよ! 勝手にやってきて、勝手にいなくなって…」。そしてつぶやいた「親父……」は、やさしくて切ない慟哭でした。


 大介は、念願だった看護学校に入ったばかりの、陽三さんの新しい奥さんのことも思いやり、平日は弟君と暮らす生活を提案します。ご主人のもとに帰ることになった律子さんは、その弟君に週一でピアノを教えに来たいといい、最後まで陽三さんを診てきた陽三さんの旧友は、学校を休みがちだった弟君の家庭教師を申し出て、その生活を応援することに決めます。一人だった大介の生活は、陽三さんが亡くなっても、一人にはなれそうもありませんね。


 葉菜子と二人だけになったお棺の前で、大介は言います。お母さんの時はすべてが用意されていて、それに従うだけだったけど、陽三さんが亡くなった今、それでも普通でいられたのは、「葉菜子が上にいる。そう思えたからだ。ありがとう…」と(二人の前には、ねじり鉢巻きで明るく笑う陽三さんの遺影と、大介の後輩君の結婚式での写真や、パーティーでのみんなとの写真、そして最後に写真館で撮った、晴れ着姿の家族写真などが飾られています)。


 何で陽三さんが亡くなるのが、最終回の早いタイミングだったのか。それは、そのあとあった、告別式後の大介の喪主挨拶の長セリフのためだったのだと、そのあとわかります。大介は、やや早口で型通りの挨拶をしている途中で、突然陽三さんへの不平不満を語りだします。何もこんな時に…と言いだす参列者たち。でも、「こういう時だからこそ、言ってしまえ」とはやす人もいたりして、「まだ親父がその辺にいそうだから言う」と言う大介は、全然別の話に思えることを話し出すんです。

「俺がもし誰かと一緒になる時があるとしたら、この人しかいないなぁって…。そう言う人と、親父のせいで…、いや。そこだけは親父のおかげでそういう人と出逢って…(
葉菜子の方に向きなおす)。熊谷葉菜子さん。そちらも同じ考えをお持ちでしたら…(なんでいきなり敬語なんだ…)。俺たちは多分一人で十分な生き物なんだろうけど、それでも、せっかく出逢ったんだから、僭越ながら…、一人より二人になってみない?」             


 律子さんに促されて、何でこんな時にとつぶやきながらも葉菜子は答えます。「それではこちらも…。僭越ながら、喜んで…」。

 「僭越ながら…」。その言葉は、「クレーマーハナコ」のメールの最初に必ずかかれていた言葉でした。その言葉を間においた時だけ触れあっていた二人は、陽三さんのせいで出逢い、こんな時を迎えました。感想の中には、「喪主挨拶であれはない」というのがいくつかありましたが、私はそうは思いませんでした。それこそが、陽三さんがいちばん聞きたかった言葉、見たかったシーンだったはずだと思ったからです…。もちろん、喪主挨拶は参列者さんに向けてのものだとはわかっていますけどね。
(次回ようやくラストです)