★深く、きらめく言葉たち~母の想い・娘の想い~
全10話の中のあちこちに、ハッとしたり、心がほんわかしたりする言葉がちりばめられているこのドラマ。葉菜子の後輩にプロ―ポーズされた(そう、された…です)大介の返事になる、素敵な言葉がある回があるんですが、この回には、葉菜子と母律子との、思い出深いシーンがあるんです。ここでは、そのシーンに触れていきますね。
まず、このシーンに必要なあらずじをお話します。
実は葉菜子には、母に秘密にしていることがあるんです(というか、彼女の元旦那さん以外は、友達さえもそのことを知りません)。それは、葉菜子が前の結婚を終わりにするきっかけとなった出来事なのですが、たったひとりそれを話した大介から、「言っちゃえば? 律子さんに…」と言われても、「泣かれるのが嫌だから…」と葉菜子は応じません。
これまで話したように、大介は、基本的には相手のプライバシーにまで突っ込んでいくやつではありません。でも、ぶつかりながらも葉菜子との距離を(人としての距離を)縮めてきた彼は、そんな葉菜子に言います。「(自分の生活に立ち入られて)随分好き勝手されたろ。少しは仕返ししてやれ」と…。
「心配かけたり、迷惑かけたりしてやれ…。その方が律子さん、喜ぶんじゃない? 余計なお世話だけど…」
それは、ただ一人その秘密を知る部外者であり、一人の生き方を選びながらも、同じように陽三さんに好き勝手されてきた、そして、父を通じて親しくなった律子さんの想いも汲んだ、大介ならではの言葉でした。そして、帰宅した葉菜子は、母に離婚の理由を話すことになるんです。ほんとうに何気なく…。
「そんなこと聞いてない!」
律子さんは動揺します。「どうして話してくれなかったの?」と責める律子さんに、葉菜子は言います。「お母さんに泣かれるのが嫌だったの…」と。
涙を流しながら、「泣くのは私じゃないでしょう」という母に、葉菜子は語りかけます。「泣き顔を見られるのは、もっと嫌だから…。もう大人だもん…」
実は、律子さんが葉菜子のもとを訪れたのは、田舎暮らしに疲れた…というのは口実で、数年の海外勤務から帰国した、けっして嫌いで別れたわけではないらしい葉菜子の元旦那さん(これがまたいい人でね。何と大介とけっこう気が合うんです)と、葉菜子を復縁させたいとの想いがあったからなんです。
葉菜子としばらく生活を共にしながら、いろんな会話を重ねて心をほぐし、葉菜子との復縁を望んでいる元の旦那さんとよりを戻させたい。そう思っていたんですね。葉菜子の告白は、律子さんにその「たくらみ」をあきらめ、葉菜子を見守っていこうと思うのに十分なものでした。葉菜子を包むように抱いて、律子さんはその背をなでながら言います。
「馬鹿だねぇ…。葉菜子の泣いた顔なんて、生まれた時からずっと見てるよ」
確かに。何百回、何千回となくね…(この言葉、とってもしみました)。葉菜子も「ありがとね」と、母の背を同じように撫でます。
やがて、すでに就寝している大介のもとに、葉菜子からのメールが入ります。そこにはこう書かれていました。
『話して良かった』
今度は、葉菜子のもとに大介からのメールが…。
『そっか。良かった』
(その6に続く)