『家族ノカタチ』の最終回に、大介のこんなモノローグがあります。
人は、変わっていく。良くも悪くも、ちょっとしたきっかけで…。人は、時に離れたり、赤の他人同士が寄り添ったりしながら、いろいろな暮らしを作っていく。同じ暮らしなんてどの窓の中にも一つもなくて、それぞれの屋根の下、それぞれの窓の中で、幸せの形を探し続ける。正解がどれかなんて、誰にも分らずに…。
陽三さん亡き後、大介と葉菜子の部屋には、そのどちらにも、「永里」「熊谷」と、二人の名字が並んだ表札が掲げられています。二人は、二つの部屋を行き来して暮らしているようです。弟君も、時々訪ねてくるらしいそのお母さんも、週に一度度訪れる律子さんも、陽三さんの旧友さんも、もちろん葉菜子と大介も、それなりに楽しそう…。このやり方が、二人の「家族ノカタチ」なんですね。
このシリーズで何回も画像を掲げてきたドラマのポスターには、それぞれの人の上に家をあらわす「ウ冠」がありますが、ドラマでは、その回にはその回の、テーマに沿った形の「ウ冠」がありました。一人ずつの「ウ冠」の場合もあり、二人で一つの場合もあり、全員で一つの場合もあり…。一度たりとも同じものはなかった気がします。そのあたりも、とてもきめ細かい。
さらに、大好きなロフトにも、それまではなかった後輩君の結婚式の引き出物―犬のガブリエル型のろうそくの、ピンクとブルーが並んで置かれています(大介の分と葉菜子の分ですね、きっと)。置いたのは葉菜子でしょう。いろいろこだわっていたはずなのに、大介、だいぶ生活を侵食されている模様…(二人の関係性がわかりますね)。
ラストは、大介が「やっぱり一人の時間は大事」と、ビールを楽しむためにロフトにいるシーンでした。そこに葉菜子がズカズカと上がってきます。「私もビールもらおっ」という彼女が持ってきたのは、いただきもののサケの燻製。
サケの燻製といえば、です。大介と葉菜子が実際に出会うきっかけとなった出来事がありました。それは、陽三さんが火災報知機を鳴らしてしまい、消防車がやってくるという大参事の時のこと(大介にとっては)。その時に、陽三さんが作っていたのがサケの燻製だったんですね。つまり、二人の出逢いと「二人になってみた」生活のシーンに、同じものが登場しているわけです。これも、心憎い設定だと思いました。
何やら大介がぐだぐだ文句を言い始めると、葉菜子は乾杯のグラスを合わせて問答無用に持って行きます。大介はもう黙って飲むしかありません…。ビールをおいしそうに飲む二人の左手薬指にはおそろいの指輪が…。これも特にクローズアップにされるわけでもありません。でも、見ている側は、それに気付き、「そうかそうか。そういうことね」…と思うことができるんです。
ものの見事にぴったりの配役、そしてそれぞれの自然な演技、さらに、ドラマ自体のあらすじもその理由なんですが、どうしてこんなにこのドラマが好きだったんだろうと思い返して見直してみた時、こういう制作側の配慮がそこここに感じられたんですね。ほんと、どこまでも手厚い…。
ドラマの間に入るCMの画面にさえも、その時のストーリーと関係したメッセージが入ってたんですよ。こんなドラマ、見たことがなかった気がします。ほんとに全体を通してあったかくなれた、幸せな時間でした。そして、ドラマの最後にはこんな画像まで…。
正装した大介と陽三さん、そして葉菜子と律子さん、四人の姿です。この画像は、内容の中には出てきません。これを見て、うるっときてしまった私って…(陽三さんに、味あわせてあげたかった…)
こんなあたたかで、普通で、素敵で、きらめく深い言葉だらけな心づくしのドラマの視聴率が低いなんてねぇ…。どうかしてるよ、まったく……。
それはともかく、長い間、見てないドラマのお話につき合ってくださった方々、ありがとうございました。ほんとに感謝です