『光と風の間(はざま)で』総本家

総本家なんで、あれこれあります

月に行く船~もひとつ納得しないまま、とりあえずUP~

 
 
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長々と延ばしていた「月に行く船」のお話。あれこれいそがしかったりしたのと、「あの子」がやるならどんな風になるか…なんて、ハードルを上げてしまったために、ちょっと考える時間が多くなってしまいました。
 
まず最初におことわり。オンエアからだいぶ時間がたってしまったので、少しくらいネタバレをしてもいいかな…なんて感じでこれを書き始めているので、これから録画やネットで、まっさらな状態で見たいと思ってる方には、スルーしていただいた方がいいかもしれません。それでもいい、あるいは、もう見たよ~って方は次の文へどうぞ。
 
 さて、この物語は、風のそよぐ音や鳥の声の聞こえる小さな駅で始まります。その駅のホームのベンチに、しっかり背を伸ばして座るひとりの女性(和久井映見さん)。彼女が主人公の一人です。頬に受ける風を快く感じているような表情の彼女には、どこか不自然な感じがするのですが、そのわけは後でわかります。
 
 もう一人の主人公は、地方に越した有名作家さんの所に原稿を受け取りに来ていた、編集者の男性です(谷原章介さん)。42歳。それから、183センチと話すシーンがそれぞれ出てくるのですが、とても良さげな人です(後で、自分は―新しく創刊される雑誌の―編集長なので、自分を怒る人はいないと話していましたが、「あんな風な編集長さん」を私は知りません。いろんな意味で…爆)。
 
二人は、最初のシーンの駅の待合室で出会うことになります。そう。彼女は、電車に「乗らなかった」んですね。
 
 地方の小さな駅のこと。電車の便数は多くありません。東京に帰るべく駅に着いた男性は、そのためにしばらくそこで待つことになります。ところが、雲行きが怪しい作家夫妻の自宅を早々に出てきてしまったために、とにかくおなかが空いていたんですね。彼は、待合室の傍らに座っていたその女性に、「近くに何か食べられるところはないか」と尋ねるのですが、そのとき、彼女の傍らに白い杖があることに気がつきます(そう。彼女は目が見えなかったんです)。その時から、二人の時間が動き出します。
 
ちょっと横道にそれますが、このドラマ、編集者の彼が訪ねた作家先生夫妻宅の出来事が、ところどころに挿入されるんです。でも、「そこまでそっちの話に入り込むこともないんじゃないの?(ストーリーとして)もっと二人に焦点を当ててもいいんじゃないかなぁ」という感じを私は受けたんですよね。まぁ、橋爪功さん&栗原小巻さんですからね。さらっとなぞるだけ…というわけにもいかなかったのかもしれません(なんて思うのは私だけかも…^^;)。なんて深読みはともかく、もちろんストーリーがそれと全く関係がないわけでもありません。作家先生宅のトラブルに巻き込まれ、彼女がそれの相談に乗ってくれたりもして、さらに心が近くなっていったわけですから…。
 
さて、話はストーリーに戻ります。その二人の時間の中で、男性は、彼女に3つの嘘をつきます。それは、ある意味でいえば、目の見えない彼女を思ってついた嘘なのですが、彼女はその嘘に気付いてしまいます。
 
その嘘ねぇ。特にそうしなくてもいいような嘘なんですよ。「こうでした~」と言ってしまえばいいような話を、そのまま言わずに取り繕うから、たままた漏れ聞いた作家さんと彼との電話の会話とともに、彼女を不愉快にさせる結果になってしまいます。ただ、おそらくそういうことをこれまでにたくさん経験しているだろう彼女は、ある時まではそのことには触れずにいるんですけどね。
 
そんな中で、食事ができるお店に連れて行ってもらったり、(急に入ってきた仕事)その作家さんのいる町の資料作り(?)をするために、彼女が感覚で覚えている場所に彼が連れて行ってもらったときの、その自然の風景の美しいこと―。川の流れ。緑の風景。そして、そこに立つ彼女の姿-。ほんとにどれもきれいだった…。彼女に花はどういう形をしているかと尋ねられて、花の姿を花火に例えるやりとりをするシーンや、ところどころの二人の会話も、快かったなぁ…。穏やかでいて、とてもテンポがいい。
 
ドラマの後半になって、電車に乗りもしないのに、何故その駅に彼女がずっといたかがようやく明かされます。それは、目の見えない彼女を「ある人」が本当に思っていてくれるのかどうか、いや。二人の気持ちが本物なのかどうかを試したための出来事だったのですが、それが最後にひと波乱を起こすことになるんですよね…。
 
私がそういう障害を持っていないからかもしれないけど、その時の彼女の行動に、そこまでするかなぁ…という気がします。逆に、そこまでするほどなら、たとえ頼まれても駅を離れないのでは…という気もします(ただ、これには、じっとしているのもつらい…という想いがあるのかもしれません…)。聡明で気丈で、まっすぐな女性のようだったので、中学で視力をなくしてから、いろんな辛抱をして来ていたのかもしれないですね。表には出さず…。そんな辛さなら、私にもわかります。
 
そして、彼です。新しく創刊される雑誌の編集長。独身で、家と会社を往復している(と言っていた)。有名作家さん夫妻とは旧知の間のようで、その作品を愛し、尊敬もしている。誠実な人柄。とにかく人がいい…。それだけじゃなく、彼女との会話からも、その感性の素敵さと包容力もわかります。また、(彼女の目が見えないから興味を持ったとかではなく)「いい香りがしたのでそちらを見たら、きれいな人がいた…」と、後で、彼女に声をかけた理由をきちんと説明してもいるので、人がいいだけでもなさそうですね…^^(そのいい香り…、彼女は、コロンとも香水とも言っていますが、これが「月へ行く船」という名前の香りなんです)。この男性…毒は…ないな。
 
「あの子」がこの役をやるとしたら…。あの子の場合、エディターさんにしては、オーラが強すぎるかもしれません。それを殺して、普通の人になってもらって…。普通の人といえばインスだけど(なんだそれは…)、インスより、穏やかながらも言葉のキャッチボールの速度が速くて的確…。多分会話の感じも変わるでしょう。森の中に立つ彼女をふっと見つめる場面など、「あの子」がやると、また別の色が付くだろうな。…それでいながら、詰めが甘いというか、ちょっと人が良すぎたりもする男性。その辺りが、ちょっとコミカルだったりする。むふっ。どうよ?
 
さて、その終わりは、「別の意味でのハッピーエンド」ということになるんでしょうが(ちょっと奥歯にものの挟まった言い方)、もうちょっと二人の出来事を膨らませてもらっても良かった気がします。まっ、実際の出来事なら、それくらいさらっとしているかもしれないですけどね…。それでいて、忘れられない。心の奥に生き続ける思い出…。
 
彼女が、別れ際に彼に渡した、「月に行く船」を入れたアトマイザー。そして、風景を撮る間に、こっそり入れて撮った彼女の横顔…。彼は、それを時々開いてみるんでしょうか。そして、彼女を思い出したりもするんだろうな。
 
そんなその後を想像をさせる、やさしいドラマでした。昨年の、「月に祈るピエロ」と同じ制作、同じ脚本家さんですね。そう。谷原さんも同じです。いい時間をもらいました。また、来年も素敵なドラマを作ってくれるのかな。