『光と風の間(はざま)で』総本家

総本家なんで、あれこれあります

「月に祈るピエロ」レビュー…ってほどでもないよもやま話(ネタばれ含む)

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昨夜ちょこっと話しましたが、一昨日放送された「月に祈るピエロ」という、単発のドラマを見られた方、ありますか?

午後2時ごろあったドラマなので、とりあえず予約をしておいて、昨夜寝る前に見たんですけど、最近になく刺激のない(いい意味で)、静かなドラマでした(「半沢直樹」あたり刺激だらけだったでしょ?)。

ドラマを見てらっしゃらない方のために、まずはストーリーを説明。

(今は持っていない)子供のころ好きだった童話の本を、ネットオークションで手に入れた、田舎町に住む女性が主人公。その中に、一枚の手書きのレシピが入っていたんですね。どうも、その童話の中に出てくるお菓子の作り方のようなんですが…。

彼女は、もしいるものならと、男性らしい名前の元の持ち主(最初のHNだけでは、性別は分かりませんよね)にメッセージを残します。そして、そのレシピが、元の持ち主の亡くなったお母さんが、彼が子どものころに作ってくれた、やはりその童話の中に登場するお菓子のレシピだと知るんです。

「母の数少ない手書きの文字」…というそのレシピが書かれた紙を、彼女は何度か失敗しながら作ってみたお菓子を添えて、差出人の住所(東京)に送り返すんですが、そのことを通して二人の交流が始まるんです。

最初は、メールでのこちらの風景はこんなもの~とかいう話だったのですが、元持さん(元の持ち主を勝手に略)が、お礼にアンティークのピエロの置物を送ってくれたことから電話での交流も始まるんですね。

何度もやり取りをしているうちに、二人は自分自身のことを話しだします。元持さんからは、「過労で入院することになったんだけど、別れて再婚している元妻のところにいる娘が、来てくれるのはいいけど、スマホばっかりいじって会話しようともしないとどころか、お小遣いをせびって帰って行く」…なんて愚痴を話したりしますし、主人公は、毎日変わることなく続く田舎の生活や、体の悪い祖母と母と彼女3人の生活の大変さを語ったりします…。そして、次第に深く心を通わせるようになっていくんです。

彼女のお母さん、けっこうきついお母さんでね、家ではおばあさんの介助も手伝う彼女の言うこと、やることは、全否定なんです。で、彼女に来た男名前の荷物を隠したりもします(これには、ちょっと事情がありましたが)。ただし、しょうがない部分もあったように思えます。うちの祖母は、お医者さんが「よくこれを家で見てきた」とあきれられたほど重度の認知症だったので、それを看る大変さというのはわかるんです。だから、主人公につらく当たるしかなかったお母さんの気持ちも、それなりに理解できたんですね。ただ、そんなお母さんと二人でおばあさんを看る家の状況や、職場などの周囲を含め、鬱積したものを抱えていた彼女は、元持さんとの交流に新しい力を吹き込まれたようでした。

…とは言っても、元持さんが仕事の現場に戻ってからは、小さな医療機関に受付として勤務している主人公と、朝昼関係なく働く大手商社のビジネスマン(部長さんだったかな)である元持さんとは、彼が入院していた時の様には交流ができなくなります。そして、ある日。旧友たちとの飲み会で、彼女についての昔の話題がよぱらった級友から出た夜、やりきれない想いになった彼女は、その勢いで、まだ仕事中だった彼の処に電話し、これまで言わなかった彼女のことを語るんです。

いや、これ良くある話なんです。名古屋で仕事をしていた時に、妻帯者と知らない相手と恋愛してしまった彼女。それが奥さんにばれて仕事をクビになり、それどころか、田舎に帰ってきた彼女の自宅にまで奥さんが押しかけて騒ぎ、それがその地区の噂になった…っていう。30くらいですか?という元持さんに、話を合わせていた彼女。41歳だし~というようなことも話します。

元持さんは、驚きませんでした。さっきも書いたけど、驚くような話でもないですから。で、女性である相手の年を思ったより若めにいうことも、世慣れた男性としては珍しくもないでしょう。元持さんは言います。「来月の九州への出張の時、途中下車してあなたの町まで行くから、逢いませんか」と…。さて彼女はどうするでしょう…というお話なんです(もちろん、その先にラストがあります)。

このあたりね…。すごく脚本家の方の田舎への「偏見」があるな~って思いながら見てました。彼女にとっては消せない心の傷なんだろうけど、最近ではどこでもありそうな話。彼女は、「田舎だから、それからずっと笑いものになって、母は私を邪魔だと思っている」…とか言うし、その過去があるから就職口のない彼女を、医師になっている元の同級生が拾ってやったとかいう話が旧友から出てくるんですけど、一度は人の口に上ることはあっても、どんな田舎でも、この程度のことで笑いものにはならないし、仕事に採用しない理由にもならない。さらに、それが結婚できない(あるいは、しない)理由にもならない。「そんな経緯がなくたって、いや。何もなくても結婚しない理由になるって思ってる人は、今世の中にはたくさんいるぞ。あほかいな」…と、このあたりちと冷めたんですけど、まっ、それは、書き手の想いなので、ちょっと横に置いといて…。

そこに出てくる…、中部地方なんだろうな。山の町の風景が美しくて、まったりした川の流れまで感じられる画像が素敵でした。さて、これからどうなりますか…というラストにも、ありきたりだけど、あったかくなりました。

それに何より、「月に祈るピエロ」です。この本は、実際にあるものではなさそうです(Amazonを探してみたけど、ありませんでした)。内容は、言葉売りのピエロがいて、サーカスのブランコ乗りの花形団員に、女の子を口説き落とす手助けをしてあげるのをはじめ、いろんな人にすてきな言葉を紡いであげるのですが、彼が本当にある女性を愛したとき、彼の中にはすてきは言葉がすっからかんになくなってしまっていて、ただ月に祈るしかなかった…というお話なんだそうです。どこかであったような話ではあるんですが、何故か、それが読みたい気になってしまいました。言葉売りのピエロに逢ってみたい気がしました。

言葉売りのピエロは、すてきな言葉を、みんなに売ってしまったから月に祈るしかなかったんでしょうか。私は…、本当に人を愛したから語れなくなったのではないか…なんて思ったりしたんです。胸がいっぱいってのは、そして、本当に愛するということは、美辞麗句では語れないものじゃないかしらね…。

時に、そう思うことがあります。そこを乗り越えてこその、言葉かきなのですが…。