『光と風の間(はざま)で』総本家

総本家なんで、あれこれあります

手ごわいやつ

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 やたらバタバタしていたこの頃のある深夜、二階にある寝室に上がろうとして、ふと階段のところの壁を見上げたとき、何やら黒く長いものが壁に貼り付いているのが見えました。ぼんやりと…ではありません。はっきりと!です。何がありついているンだろうと、近づいてみると、何とそれはムカデ

 それと気がついた瞬間、時が止まりました。これに刺されると、焼けた縫い針を指されるようにいたいとか、祖母は言っていた。大きいのに刺されると、熱が出て数日寝込むほどだと。目の前にいるのは、長さにして20センチほど。全体のフォルムもかなりのもので、黒光りしていますから、もう脂汗がタラ~って感じです。

 真夜中の階段でにらみ合いはじめて(?)から、どれくらいの時間がたったのか。人間、びっくりし、衝撃に襲われたとしても時間さえたてば、頭のどこかに冷静になれる部分ができるもの。二階に、少なくとも10数年前に買いこんだ「ムカデキンチョール」なるものがあるのを思い出した私は、とっくの昔に寝ていた母(一階で寝ている)をたたき起こしに行きました(何故じゃ)。

 母は半分寝ボケて、「自分で何とかしろ。追い出せ」とか言います。なこと、できるわけないじゃないか~

 敵は巨大だ。それも元気良さそうだ。悪いヤツほどほどよく眠るというじゃないか(それとこれと、何の関係がある)。とっても昔に一回それよりははるかに小さいムカデが出たことがあって、まだ若い母と、また認知症を患ってないころの亡き祖母が退治してくれたけど、私はどう戦っていいのかさえわからない。多分私が自分の部屋の窓を少しだけあけていた、そこから入って来たものだと思われるけど、で、ついでに、「まさかと思うけど、ずっとまえにあんなことがあったから、お守り代わりに」と10数年前に買ったムカデキンチョールが二階に置いてあるんだけど、何十センチほどしかない至近距離にその敵がいる、そこを通って二階に行けと? そんな薄情なことを?…とかまくしたてたことで、やっと母が起きてきてくれました。 …とはいっても、「(やつが)動いたりしないか見ててよ」ということで、ただ見張ってるというのが母の仕事だったんですが…。

 真夜中なので、ほんとに大声を上げるわけにはいかないけど、心の中でギヤーギャー言いながら、反対の壁に貼り付くようにして階段を上がります。敵はちょろちょろと動きません。やっぱり大物です。使いっぱしりの下っ端ではないので、こちらの様子を見ているのでしょう(なんのこっちゃ)。

 そして、見事手にしたムカデキンチョール(確か隣の部屋にあったと探し回った)を、引けた腰でかけまくりました。ところが、しばらくかけても様子はかわりません。それでも、私ができるのはそれだけなのでしばらくかけ続けたら、やつはいきなりポロンと階段から落ちました。滑らないように注意しながら階段を下りると、そのそばに寄った母、「こりゃすごいわ。初めて見た。これに刺されたら、一週間は寝こむわねぇ」とかのんびりした声で言います。

 それでも、敵はまだ戦う気力を失ってはいませんでした。体をくねらせ、頭を上げようとするんです。どうしよう。怖いよ~。これからどうしたらいいの?

 「とにかく、何かに入れて外に連れ出せ」という母。何に入れればいいのかわからず、さらに、捕まえることもできない私ですから、物置に置いてある外ボウキと塵取りを取って来て、また心でギャーギャー言いながら今度は派手に動き回るそれを塵取りにすくいとり、母に玄関を開けてもらって、そばの小さな川まで駆けて行って放り出したんです。まだしがみついてるんじゃないかと、ほうきと塵取りを何度も振り回す私。人影の途切れた夜中の出来事。見られなくてよかった。

 それから、しばらくムカデキンチョールがかかった場所を掃除。母、一段落すると、エライ騒ぎに巻き込まれたといいながらベッドに戻っていきましたが、私は疲れ果ててしまった上に、まだいるんじゃないかという恐怖があるので、もう寝るどころじゃありません。…っていうか、夜がもう白々と明けてきてるし…。

 いや~。思わぬことがあるものです。けっして「やつ」がわるいわけではないことはわかってはいるんだけど、できれば住み分けしてほしい。ごめんよ~。南無釈迦無二仏~