『光と風の間(はざま)で』総本家

総本家なんで、あれこれあります

嫉妬と憧れ

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NAKAMA des ARTS(「仲間でアート」と読むらしい)」という展示会が、パリのルーブル美術館にあるシャルル5世ホールで開かれたのは、先月の19日から今月の3日までのこと。この展示会での展示物を作ったのは、香取慎吾というアーティスト。ええ、「彼ら」の末っ子君ですね。
 
彼がここで初めての個展を開いたことを、「(そこで展示会ができる権利を)金にものを言わせて買った」だの、「敷地内にはあるが、ルーブルの館内で行われているわけじゃない。勝手に消火器を売りに来て、『消防署の方から来ました』というのといっしょ。ルーブルでと言うのは詐欺」だの、「デッサン力もない」だの、「子供のような幼稚な絵だ」とか、ツイッターで色々と悪く言っていた人がいるらしく、「彼女たち」の中には、ずいぶん腹を立てたり、心を痛めたりしていた人たちもいたようです(実際にあちらで見た人たちは「言ってろ!」と思ったかもしれないから、主にお留守番組の方たちね)。展示会の内容はともかく、まずちょっとそれについてのお話を…。
 
「買った」については、以前ここでちょこっとお話したことがありましたよね。あちらで絵画にかかわっている方が、ツイッターでのそういう意見について、「ルーブルを舐めるな!」(ルーブル美術館はお金でそういう場を貸す程度の低いところではない)と一括されていたことがあった…と。
 
「ルーブルの方詐欺」については、ルーブル美術館自身が、「日仏友好160周年を記念する『ジャポニスム2018』の中の行事としてルーブルで行われる」と自らこの個展について広報しているので「ルーブル公認」。「デッサン力もない」については、月に一度の新しい地図のアベマTVでのレギュラー番組(通称「ななにー」)で、奇しくも彼自身が言ってました。「デッサンなんて、したことがない」。だから、デッサン力があるないの問題ではないですね
 
さらに、「もっと画力のある人がいるのに」とか、「あんな稚拙な絵をあそこで展示されるなんて、日本人として恥ずかしい」だのというのは、とても個人的な感じ方でしかなくて、さらに、その発言だけで、そこに展示されていた彼の絵のすべてを見ていないとわかってしまいます。あの展示会を見に行かれた方が、絵画や展示物をいくつも(人によってはすべての絵の写真をアップしてくれているのを)見ましたけど、写真を見ただけでも、すごいエネルギーを感じさせる絵がずいぶんありました。あれを全部見て、そんな一言で片付けられる人はそうはないと思う。
 
いつか話したことがありましたけど、私は館とつく場所が好きです。だから、美術館も好き。ただ、全くの素人なので、その絵の確かな筆致だの素晴らしい技術だのとかいうのがわからないし、それより、会場の雰囲気やそこにある絵から感じられるエネルギーにひかれるんです。それに心を持って行かれる。だから、そう思うのかもしれないですけどね。
 
話は少しずれるんだけど、たとえば歌も同じだと思うんです。歌唱技術をよくお勉強なさっていて、実際お上手で、その歌に流れる想いのひとかけらさえ感じさせてくれないひとは山ほどいるけど、その心のある風景を、その痛みさえも感じさせてくれる人はそうはいない。上手いへただけで、人は「感じない」。心を心で感じさせる。だから、心を打つんだと思う(「あの子」の演技もそう…)。
 
ふっと、横尾忠則さんが、「アートの世界はすさまじい嫉妬の世界だ」と言っていらしたのを思い出しました。「そうじゃない。一般論だ」といわれるかもしれないけど、本当にそうでしょうかね。そうだ。その時横尾さんは、過去に自分の絵を酷評されたことについても話してらして、こんなようなことを言われてたんですよね。「しょうがないよね。そうなんだから…」。この返しはもう…、さすがです!
 
アートの世界だけじゃないですよね、こういうの。たとえば、音楽の世界でも…。ずっとまえの映画『アマデウス』って見られたことがありますか? あれは、天才モーツァルトへの嫉妬とその才能への憧憬(といっていいのかな?)の入り混じった想いを持つ音楽家が、それゆえにモーツアルトを、そして、自らをも破滅に向かわせる世界を描いたものでしたよね。あそこまででなくても、ああいった想いって普通に人の心にあるものだと思う。人間だもの、それはそれでいいよね。想いは自由です。無理からにほめろと言うわけでもない。ただ、わざわざ人の見る場所でああいうことを言ういうことはないと思う。私なら、そんなことをするのは、むしろみじめに感じるな。
 
それはともかく、末っ子君は、今回のことでそういう世界に踏み出したということなのでしょう。もちろん覚悟の上でしょうが。何せ、あの場所で正式行事として個展を、それも初めての個展を開いた日本人なんてこれまで誰もいないんですから。日本初のことなんです(だから、そういう意見もあるだろうと彼もきっと予想していたでしょうね)。

ところが、個展はあちらでかなり好意的に受け止められたらしい。これ、例の事務所への忖度なのか、日本で大きく報道されなかったけど、好き嫌いはともかくすごいことなんですよね。さて次は、展示物についてのお話を少しします…って、実際には見てないやつが見てきたようなことを言う