『光と風の間(はざま)で』総本家

総本家なんで、あれこれあります

意外な拾いもの~「出雲のあやかしホテルに就職します」~

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 先日、ちょっと長めにJRに乗ることになりました。着いてからの準備は万端だったので、列車の中でな~んか読もうかなと思って、特に期待するわけでもなく時間つぶし的な感覚で買ったのがこの文庫本でした。それがね~。四章からなるこの物語、言いたいことはいくつかあるんだけど、けっこう面白かったんですよ。

 最初はギャグ満載の物語なのか…と思いました。そんな(コメディ的な)面白さもあったから。ところが、段々と様相は変わり、四編の中の最後の物語なんて(それぞれが一話完結的な書き方なので、そう言ってもいいかと思います)、夢枕獏さんの『陰陽師』を思わせる、「あやかし」と人間との、しっとりとした愛のお話だったりして、なんかしみじみしてしまったんですよね。それが目の当たりに見える感じがするこの章、好きだったな…。

 ネタバレしてはいけないので、すっきりした書き方はできませんが、あらすじを少しお話すると、この物語の主人公、見初ちゃんは、就職活動中の大学生なんですが、いくつ受けても就職が決まらないんですね。それは、彼女が受験する会社はどれも、見初ちゃんが受験した途端、仕事上の問題が露見してつぶれてしまったり、別の悪事で就職試験どころではなくなってしまったり…と、会社自体がとんでもないことになってしまうからなんです。それも彼女のせいではないんだけど、あまりの成り行きに、大学側からは「事故物件」扱いにされてしまうありさま…(大学職員と彼女と、そして「何者か」のやり取りのシーンなんか、ちょっとシュールで笑えます)。

 そんな彼女に大学が紹介したのが、出雲のあるホテル。人間じゃないものが「出る」という噂で、ネットでも知られているホテルだったんです。「いくら就職が決まらないからって、ひどすぎる」といきり立った彼女だったんですが、偶然を装った登場自体が怪しい冬緒君との出会いで、そのホテルに就職することになってしまうんですね。

 そして始まる、鈴娘(ベルガールではなく、ここではそう呼ばれています)としての生活。これは、その見初ちゃんと、ホテルにやってくる「お客様」や心優しき従業員たちとのやり取りのお話なんですが、その途中で出てくる、ベルボーイの冬緒君、そして見初ちゃんの生家のお話。そこにまだまだ明かされない秘密があるようなので、続編ありきの作品なんだと思います。

 二つだけ、ちょっと気になったことを。読まれる場合、この物語に「出雲」を期待しない方がいいと思います。このお話、出雲の…とはしてあるんだけど、出雲のことに触れてある所はそうなくて、出雲の描写に至っては全然出てきません。そういう意味では、出雲でなくても、京都…はちょっと違うかな。そうだな。たとえば遠野だったとしても、そのまんまいけるお話だと思います。そしてもう一つ。出雲の…とされると、もしかして神様もお客様としてやってくるのかしら…とか思われるかもしれませんが、お話の中には神様は登場しません。出てくるのは、あやかしと〇○師…。なので、やっぱり出雲でなくてもいいお話だと思うんですよね。

 それだけ了解してもらえれば、たとえば、帰省の時なんかに読んでいただくと、ちょっとまったり&ムフフとした時間を過ごしていただけるんじゃないかなと思い、ここで記事にしておきます。