『光と風の間(はざま)で』総本家

総本家なんで、あれこれあります

ゆれる足取り

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 ここで何度が登場した、ご近所犬ももちゃん。覚えてらっしゃる方もあるかな。

 「ももちゃんママの憂鬱」

 お宅はわが家のお墓への通り道にあたるので、13日~16日までの夕方の灯ともし(ここでは、その間毎日お墓の灯篭に灯りをつけに行くんです)の帰り、モモちゃん宅の前で声をかけていたんです。

 いつもなら…とはいっても、この春先までならすぐに出てきてくれた彼女は、出てくる様子がありません。実は、気温が上がってきた頃から一気に老衰が進んできていて、あまり食べないし、散歩にも出かけたがらないんだと、ももちゃんママに聞いていたんです。今年は、春がないと思ったくらい気温が上がるのが早かったから、それが堪えたのかもしれないですね。だから、どうしてるかなと思って、声をかけていたのですが…。

 庭を少し入ったところにある彼女の家。あまりよそのお宅のお庭に入り込むのもなぁという気持ちと、動きたくないのを動かせるのも…という気持ちがあって、出てこないならそれでいいとそのまま帰っていたのですが、最後の日に、やっぱり一目会っていこうと彼女の家(というか犬小屋)の方をのぞきこんだら、そこから少し離れた日陰に、前と違ってかなりスリムになった彼女が横たわっていました。声を掛けると、とんでもなくずれたタイミングで顔を上げ、スローモーションのように立ち上がります。そして、よろよろと歩きだしたんです。私がいるのと、違う方向へ。

 彼女、目の前にある柱に結構な勢いでドンとぶつかりました。まるで、それにぶつかりに行ったかのように。思わず声を上げたら、今度はよろよろとこちらに寄ってきます。もう目が見えなくなっているか、かなり目が薄くなっているんじゃないかなぁ。もしかしたら、声をかけた相手がどこにいるのかも、はっきりとはわかっていなかったのかもしれません。ぶつかったことに驚いて声を上げたから、おおよその場所がわかったのかも…。

 この場に及んでは、よそのお宅のお庭に入り込むのは…どころじゃなくて、慌ててももちゃんのそばにかけ寄ると、ゆっくりしたゆれる足取りが止まりました。

 「頭大丈夫? ももちゃん…。痛かったねぇ…」

 そう言いながら頭をなでてやると、ももちゃん、ゆっくり顔を上げ、それまでより早く動いて(とはいっても、やっぱりゆっくりだけど)私のそばぴったりに体を寄せてきたんです。それは、お散歩中のモモちゃんと出会ったとき、「撫でて」と伝えてくる合図でした。私だとわかってたんですね。

 何度も何度もなでてやりました。「いい子だね~」って言いながら。そして、彼女に言ったんです。「涼しくなったら、また出ておいでね」って…。

 秋の虫が鳴き始めました。



(画像は、もうひとつうちにある観葉植物、オリヅルランの花)